チューニングの道
2015年2月23日更新
※ 一部浅学ゆえの考え違いをした記述が含まれていますので、ご注意ください
(とりあえず完成)
最初は、とりあえず音の出るようにということで図1のような回路で完成させました。 (2001.8)
6V6GT,6L6Gなどを挿して聴いてみると、低域は弱いが高域は抜けが良くさわやかな響きでした。
(スクリーン電圧を下げる)
当初の回路だと、スクリーン電圧がプレート電圧よりも高くなります。
6L6などは最大スクリーン電圧が275Vしかないため、図1では、製流用のダイオードと直列に抵抗を入れて
マイナス電源の電圧を下げていましたが、出力アップのため(同時に球の負担を軽くし、電圧を有効に利用するため)、
スクリーンの電圧を下げることを考えました。
(1)ヒータートランスを使ってスクリーン電圧を下げる
初段ヒータートランスを倍電圧整流すれば、15V程度の電圧が得られます。
これをうまく使って、SGに-15V程度を与えようとしました。(図2) (2001.10変更)
結果は…
まずコンデンサがやられました。
R3にアイドリング電流を流し、スクリーン電流が瞬間的にもその電流値を超えないということが前提になっていたのですが、
どうやらR3の値の設定がうまくいかなかったようです。
コンデンサがやられると、整流ダイオードもやられ、ひどいことになります。安心して使えないのは良くないと思い、
この方法はあきらめました。
(2)ヒータートランスを使ってプレート電圧を上げる
(1)の応用です。
何も無理にSGを下げなくてもプレート電圧を上げればいいだけやないか?と思い、スクリーンはアースに戻し、
プレート側の電源をヒータトランス倍電圧整流の15V分上げました。(図3) (2001.11変更)
気をつけるべきはD4のコンデンサで、これを入れ忘れてまたもやコンデンサ・ダイオードを壊してしまいました。
電源OFF後、真空管が冷える前に逆電圧がかかるということに気づくまでが大変でした。
他に迷ったのは、カソードのコンデンサの接続方法です。
基本的にはカソード〜グランド間に接続するのでしょうが、これだと出力段のループがコンデンサを2段経由することになり、
折角高い大容量フィルムコンデンサを実装したメリットがなくなります。
そこで、カソード〜+15V間を直接接続しました。
結果は、残留雑音が大きくなってしまいました(NFB最大で5mV程度もありました)。
また、聴感上もクロストークが悪くなったためか、音場感が悪くなりました。
やはり失敗と判断しました。
(3)大きな抵抗を使ってスクリーン電圧を下げる
SGに6.8kΩの抵抗を入れて電圧を落としてみました。
SGは定電圧がBestというセオリーに反するので、良くないとはわかっていましたが、実際どのように聴こえるのか
確かめるのも悪くないと思い、実験してみました。
結果は、やはりだめです。
大音量になるほど低音が薄くなるという不気味な響きです。
(SG電圧が変化する部分で利得が減少し、NFB量が減るためだと思います)
なぜかクロストークが悪くなったような感じも受けました。
この理由はわかりません。
(4)ツェナーダイオードを使ってスクリーン電圧を下げる
なんということもないシンプルな方法ですが、SGに33Vのツェナーダイオードを接続しました。
ホワイトノイズが出ないか心配しましたが、何ら問題はありませんでした。音もダンピングが利いて良好です。
シンプル イズ ベスト! いろいろ悩んだのが何だったのかという感じです。
※ その後、ツェナーダイオードとパラにフィルムコンデンサを入れてみました。(図9) (2001.12変更)
より滑らかな音になったと思ったのですが、立ち上がりが悪くなった気もして、最終的に外しました。
(リップルの改善)
この状態での残留ノイズはNFB最大で1.5mV(NFB最小だと4.5mV)でした。
図1の状態では、カソード〜グリッド間のリップルが大きく増幅されて、残留ノイズとなるのですが、
実はカソード側は定電流のため、リップルはほとんど発生していないはずです。
そこで、グリッド側にのみリップルフィルターを入れてやればOKと判断しました。
結果、図4のようになりました。 (2001.12変更)
残留ノイズは約1/4になりました。さらにB電圧も7Vほど上がりました。
※現在は終段カソードのバイパスコンデンサを大容量化するなどの取り組みで、さらに小さくなっています。
(低域の改善)
図4の状態でしばらく満足していましたが、最低音域が弱いのが気になります。
基本的に終段カソードのバイパスコンデンサの容量不足が理由と思っていましたが、この部分はフィルムコンデンサを注ぎ込んでいますので、あまり安易に電解コンデンサを入れたくありません。
そこで、低域の立ち上がりが改善できるという話を聞き、初段のスクリーン電圧の安定化を行いました。
通常はスクリーン抵抗Rsgを小さくし、アイドリンク電流を流す方法が一般的ですが、R3の値を小さくしたりいろいろな箇所の修正が必要になります。
そこで、Rsgの値の変更は最小限にして、Esgをツェナーダイオード(+コンデンサ)で固定することにしました。
当初SG〜Grid間にコンデンサを入れていましたが、そのままでは盛大なホワイトノイズが発生したので、コンデンサはSG〜グランドに変更しました。(図5) (2002.2変更)
これで低域の音の輪郭がはっきり出るようになりました。
作業ミスで0.47μのフィルムコンデンサがやられましたので、コンデンサは100μの電解コンデンサに変更しました。
これで、球によっては(特に6550や8417など)強力な低音に生まれ変わりました。
(低域の改善 その2)
これでしばらく満足していたのですが、どうも球によって(6V6系など)は低音が薄く、音量を上げると出力が制限されるような感じを受けましたので、やはり終段カソードのバイパスコンデンサの容量を上げたほうが良いのではないか、ということで実験的に470μFをかましてみました。 (2002.10変更)
すると。。。今までの音は何だったのか、というほど劇的な変化が現れました。
低音が極めて安定し、それによって音に立体感が出て、細かい音の気配のような物も感じ取れます。
計測はしていませんが、耳で聞いて最大出力も大幅に上がっています。
電解コンデンサーによって音がこもったり癖が出るようなことは感じられませんでした。
逆にNFB量が増えたためか、歪が減少したようにも感じられますし、高音の抜けの良さはしっかりとキープできているように思います。
電解コンデンサーをやめてフィルムに!という部品の質よりも、必要な部分にはしっかりとした容量を確保する方が重要だということがわかりました。
(ソケットアダプタの製作)
やはり6BQ5アンプをこのアンプで聴いてみたいという気持ちが強く、何とかする方法はないのか、と思っていたら、ソケットアダプタを作れば簡単にできることがわかりました。
US8PINのベースが海神無線などに売っているのでこれを買ってきて必要なソケットと接続するだけでOKです。
ソケットは小型のアルミシャーシに取り付けています。
手始めは6BQ5/EL84、さらに6BX7GT、6CA7/KT88用、6AR6用を作りました。 (2002.2〜11)
やり始めると面白くてハマります。
6CA7用は、メタル管以外の7S/7ACの真空管はそのまま挿すことができます。
また、SG電圧を-66V,-94V,-122V,-150V,-178V,-206Vと切り替えるSWを入れると同時に、トッププレート型の球も挿せるように改造しました。(ソケットアダプタ(6CA7/6BQ6/KT88etc用)のイメージ図)
同じ球の場合、SG電圧を適正な値に合わせることで低域・高域ともに伸び、音色も歪み感がなくなります。
ただ、基本的な音色は大きく変化しません。
ほとんどの球について、このソケットを経由することで、より球の良さが出せるようです。
となれば、本体に実装すべきだったかな、とか思ってしまいます。
(部品交換、定数の細かい変更)
その他、気になったところを細々と修正しています。
1.整流用のダイオードを交換しました。
当初は、マイナス電源用として3TH41(1500V3A(1.5μs))、プラス電源用として日立のU07N(1500V1A(0.4μs))を使用していました。
若松通商で1000V3Aリカバリータイム=75nsという超高速のダイオード(UF5408)が売られていましたので、試しに交換してみました。 (2003.1変更)
まず、マイナス側だけ交換したところ、高域が滑らかになり、音の艶がよる美しく出るようになりましたので、プラス側も交換しています。 (2003.2変更)
2.段間コンデンサの変更
当初段間コンデンサとしては、東一のオイルペーパーを使用していましたが、フィルムコンデンサの方が良いという一説を耳にし、安価なタイプのフィルムコンデンサに変更してみました。 (2003.3変更)
どちらが良いとは言いきれないのですが、音色は大きく変化しました。
一言で言うと、
・オイルコン=低域の押出し感がリアル。高域はちょっと硬さがある。JAZZ向き。
・フィルムコン=音の粒子が細かく残響が豊か。特に高域が美しく響く。Classic向き。
3.Rk2の定数変更
終段カソードのCRDと直列にセメント抵抗を入れています。
これは、CRDが短絡するなどの事故に対する安全対策と、定電流動作範囲を少しでも広く取るためですが、ソケットアダプタ経由で高Gm管を挿したときに期待電流値よりも低くなってしまうことが発生していました。
そこで、当初270Ω→100Ωに変更しております。 (2003.4変更)
これにより、6BQ5や6GB8などの高Gm管を使用した時に、強力な低音とクリアな音色が得られるようになりました。
(高域改善に向けた実験 その1)
人間は欲が深いもので、今度は高域の音質が本当にこれで良いのか、気になり始めました。
普通の多極管アンプに比べると、癖が少なく、高域の伸びもあると自負していましたが、Gmの高い球を使用すると、
音に硬さが現れるような気もします。
もっと明るいながらとろけるような甘い音色!?が得られたら。。。と思い、検討をはじめました。
まずは、高域特性の計算式を睨み返してみました。
fH(kHz) = 1/(2π × {Rout(kΩ) × C(pF)} × 1000000
= 159000 × (1/rp + 1/RL) ÷ (Cout +Ck +{Cg-p ×(μ'+1)})
※ 初段の見かけの内部抵抗rp = rp1+Rk1×(μ1+1) = 1,000 + 1×{200+1} ≒ 1,200(kΩ)
rp1:(初段の)実際の内部抵抗
増幅段のロードラインRL = 1÷{(1/Rp1+1/Rg2)} = 1÷{(1/270)+(1/240)} ≒ 127(kΩ)
μ' = (終段の)グリッド〜プレート間の交流電圧比 = μ (終段のカソードにはNFBがかからないので)
まず、初段に入力される際の高域低下ですが、ラインケーブルの容量を無視すると、ボリューム位置が最悪時でも
fH = 159000 × (1/10 + 1/10) ÷ (1 +5.5 + {0.003 ×(25+1)}) = 4,800(kHz) と非常に良いです。
問題は、初段〜終段間の高域低下です。
上の式から、各球ごとのNFBをかける前のfHを計算してみました。
|
rp(kΩ) |
Rp1(kΩ) |
Rg2(kΩ) |
Rout(kΩ) |
Cout(pF) |
Ck(pF) |
Cg-p(pF) |
μ |
C(pF) |
fH(kHz) |
6BQ5 |
1200 |
270 |
240 |
114.9 |
5.0 |
10.8 |
0.5 |
50 |
40.8 |
34.0 |
6V6GT |
1200 |
270 |
240 |
114.9 |
5.0 |
9 |
0.7 |
20 |
28 |
49.5 |
6L6GC |
1200 |
270 |
240 |
114.9 |
5.0 |
10 |
0.6 |
25 |
30 |
46.2 |
確かにNFBをかける前の高域特性はあまり良くありません。
もっと入力容量の大きな球(6550など)を使うと相当悪い値になりそうです。
最近のアンプがもっと電流を多く流したりSRPPやカソードフォロアを使っている理由が、良くわかりました。
実際は、本アンプは多量のNFBを2段増幅のマイナーループ内でかけています。
このNFBのかけ方の場合、位相の変化は90度以内に収まるため、発振の可能性がなく、正確なNFBがかかるというのが
売りになっており、静的な周波数特性としては十分に広帯域になっているはずです。
ただ、本アンプのように大量のNFBをかけた場合は、NFBのタイミングが遅れることによるTIM歪というものが発生すると聞きました。
このTIM歪は音の立ちあがり時にNFBがかからず、パルス上のノイズが乗り、高域特性が悪いままNFB量を増やすと
瞬間的には球の定格を越えてしまうというものです。
確かにGmの高い球の場合、立ちあがりに強調感があるような気もします。
さて、このアンプの高域を改善するにはどうすれば良いでしょうか?
いくつかの案があります。
1.PG帰還をかける
→ 終段にPG帰還をかけると、Routを下げることができるが、初段のプレート電流が少ないのでドライブ不可能。
トータル利得も下がるのでDFや歪み率も悪くなりそう。
2.カソードNFBを追加
→ もしKNFBを6dBかければ約1.4倍程度fHは改善されるが、マイナス給電のためKNF専用巻線がないこのアンプでは不可能。
3.初段のRpを下げる(Esgを上げ、Rpを下げる)
→ うまくやれば副作用なしにfHを2倍以上改善できる。
ただ、現状からの変更は、NFB分を含めてほとんどすべての抵抗類を交換することになり大変。
はじめからそうしておけば良かった。。。
4.6AU6を12AX7に変更し、SRPPとする
→ 高域特性が伸びる一方でゲインが不足し、NFB量が減るので聴感上マイナス面も大きそう。
SRPPでも、超高域では位相が180度進むことになりますので、位相の補正の検討が必要。
修正作業量も半端ではない。
5.6AU6を6AN8などの3極5極管に変更し、SRPP(ぺるけドライブ(というらしい…))とする
→ fHは上昇し、ゲインは若干の低下で済む。
ただし修正作業量も半端ではない。
6.カソードフォロア段を追加する
→ シャーシに穴をあける作業が発生するが、定数の変更は最小限で済む
50〜100kHz近くまでNon-NFBでも高域の劣化がほとんどないため、非常に効果が期待できる反面、
数百kHzになると、高域の落ちる箇所が2箇所発生し、最終的に位相が180度進んでしまう。
NFB量が多い場合はスタガー比を大きくする必要があるが、このあたりの確保にはそれなりの苦労が伴いそう。
7.Rnfbとパラにコンデンサを接続し、NFBの微分補償を行う
→ TIM歪みを軽減できる。
ただし、高域の歪率は下がるが、レベル特性は無帰還時と同程度に悪化する。
また、適正な値が球によって変化する。
作業は非常に容易
とりあえず7.を実施してみましたら、高域がとても滑らかになり、弦楽器の音に芯が出るようになりました。(図9) (2003.4変更)
しかし、球によっては、やわらかくなった代償として立ち上がりの鋭さ・華やかさが少し失われた感じもします。
そこで、もう少し帯域を伸ばし、球による適正値が異なる点を改善するため、カソ−ドフォロア段追加を検討しました。 (2003.9)
いきなりシャーシを加工して、カソードフォロアを追加して後悔したくないという思いから、とりあえず実験的にトランジスタ(2SC5460)のエミッタフォロア段を追加してみました。詳細はこちら
効果は大きかったのですが、「シンプル」「安定動作」というポリシーから少し遠ざかると結論づけ、カソードフォロア段追加は見送ることにしました。
※高域について、その後
高域については、Daluhmannさんのホームページを見て、すっかり考え違いをしていることを知りました。
多量のNFBを安定的にかけるためには、高域特性を十分に落とした状態を作ったほうが良いのです。
理屈を理解して、改めていろいろといじくる前の状態に戻してみたところ、何のことはない、元のほうがすっきりとした素直な高域が得られました。(図10) (2004.11変更)
※高域について、その後2
その後、「3.初段のRpを下げる」を実行しています。(図19a) (2013.3変更)
詳しくは後述。
(低域の改善 その3)
低域の改善 その1で取り組んだ、初段のスクリーン電圧の提供方法について、さらに面白いアイディアがあったので、試してみました。
初段スクリーンは、プレートの電圧が下がると多くの電流が流れ、スクリーン電圧が下がってしまい、利得が減少します。
特に初段スクリーンに接続するコンデンサの容量が小さいほど低域で影響が大きくなります。
そこで、初段スクリーンの電圧が下がるタイミングに電圧が高くなる出力段プレートから初段のスクリーンに電圧を供給することで、スクリーンの電圧の変動を補正する、というアイディアです。(図11) (2005.2変更 ※ Rpfがポイントです)
低域については過補正(PFB)がかかり、利得が大きくなることで、PK帰還のNFB量を増やすことができるのではないか、という期待もありました。
結果は大成功でした。
ツェナーダイオードを外した効果でしょうか?
低域の伸びが良くなると同時に、透明度が上がり、音楽の静けさや空気感の再現が良くなりました。
ただし、コンデンサの容量(図11では3.3μ)は小さくしすぎると発振するので注意が必要です。
(高域改善に向けた実験 その2)
Daluhmannさんのホームページを読んで、私の高域に関する検討に根本的な誤りがあることがわかりました。
(NFB量の増大)
「本アンプのように多量のNFBをかける場合、高域の落ちる周波数(ポール)は十分低くしたほうが良い」という話の続きで、それならば出力管のグリッド抵抗値を増やせば、増幅段のゲインが増え、よりNFB量を増やすことが出来ます。
当初は、いろいろな球の定格に収まるよう、240kΩとしていましたが、カソードを定電流にしているので、大きくしても問題ないのではないか、と判断し、470kΩを追加して710kΩとして動かしています。(図13) (2005.3改造)
今のところ、定格値を大きくオーバーしているKT88や6550などに関しても全く問題なさそうです。
音的には、NFBの量を減らしても十分に低域の力強さが出るようになると同時に、高域がすっきり伸びるようになりました。
おそらくこの部分の抵抗値を増やすと、終段のミラー効果の影響が大きくなる→NFBループの第一ポールが低くなることで、多量のNFBをかけたときの高域が安定するということだと思います。
※ これは結果的には誤りでした。現在は元に戻しています。(詳細は後述)
(シンプル化)
「低域の改善 その2」で終段カソードバイパスのコンデンサを増量しましたので、もともとあったフィルムコンデンサを取り外しました。
音に変化はありませんでした。
さらに、「高域改善に向けた実験 その2」で付加した出力段のプレート〜グリッド間にコンデンサとRpgを外しました。
定数をもう少し吟味すれば良いのかも知れませんが、少し音に色づけがあるような感じを受けましたので、とりあえずはもとに戻しています。(図14) (2005.9変更)
(トランス周りの実験)
出力トランスの二次側の接続について、ちょっとした実験をしてみました。 (2005.10変更)
(1)OPTの二次側のアースの接続を切る
OPTの二次側はアースに接続するのが常識です。
これは、OPT一次側の高電圧が二次側に僅かずつ漏れてくるため、アースを接続しないと危険というのが主な理由です。
一方で、このアースを接続しなければ高域が伸びるという話が本に書いてありました。
マイナス給電の場合はOPT一次側がアースに接続されているため、感電の心配はありませんので、実験してみました。(図15)
(2)カソード帰還(KNF)をかける
KNFという、OPTの二次側から、出力段のカソードに負帰還をかける方法があります。
容易にダンピングや高域特性が向上するということで、好意的な評価が多い方法で、PK帰還との組み合わせは黒川先生が良く採用されています。
このマイナス給電の場合、カソード電圧がマイナスの高電圧になりますので、コンデンサを介しての接続になりますが、実験をかねてやってみました。(図16)
(1)は僅かですが、音が明るく素直に伸びるようになりました。
副作用はないようで、成功と判断しました。
(2)は強烈な変化が現れました。
音の実在感が上がり、オーケストラは大迫力です。音色も、ソプラノの声は太さを保ったまま高域まで綺麗に伸びてくれます。
一方で、デメリットも大きいです。
まず、残留雑音が3〜4倍(4Ω両端で0.4〜1mA)になりました。
これは、電源のリップルが直接スピーカに流れ込むためで、定電流ダイオードとパラに接続した抵抗を外して定電流特性を高めることで良好な特性(4Ω両端で0.3mA以下)に収めました。
また、電源投入直後1秒ほどスピーカから音が鳴ります。(それほど大きくはないですが、はっきりとわかります)
これは、電源投入直後は、定電流ダイオードの両端の電圧が大きくなるため、定電圧ダイオードを介してコンデンサに電気が充電されるのですが、その瞬間、電源のリップルがダイレクトにOPT二次側に流れ込むためです。
また、カソード側が最大±4V程度、帰還電圧で揺さぶられるので、あまりバイアスの浅い球(6BQ5など)の場合は残留雑音が大きくなったり、音に濁りが出るなどの影響が出るようです。
また、ダイナミックになった反面、なんとなく低域で共振が起きているような感じを受けることもあります。
しかし、やはり音の押し出し感の魅力は捨てがたく、しばらく(2)のKNFを採用していました。
(出力段スクリーン電圧供給方法の見直し)
「スクリーン電圧を下げる」で書いているとおり、出力段のスクリーンは、アースから定電圧ダイオードを接続するだけのシンプルな接続でした。
この方法では、出力によってスクリーン電流が変化するのに伴い、プレートに流れる電流が変化してしまう、という問題点がありました。
そこで、出力段のスクリーンには、アースから抵抗で電圧供給し、電圧安定のため、カソードから定電圧ダイオード(+コンデンサ)を接続する形に変更してみました。
(図17) (2006.4変更)
これにより、聴感上も音の抜けと切れが非常に良くなりました。
改造して初めて気づいたのですが、今までは靄がかかったような余分な響きが混じっていたようです。
(電流(正?)帰還をかける)
これはかなり珍しいのですが、電流正帰還という、ダンピングファクタを劇的に向上させる技があることを知りました。
通常のアンプでは、歪や残留雑音が増えやすいためか、あまり作例は見られませんが、このアンプの場合、非常に簡単にできるので、新たに実験してみました。
(図18) (2009.2変更)
非常に好ましい変化が現れました。
「トランス周りの実験」の(2)とは全く逆の方向で、柔らかな音色のままクリアに伸びてくれます。
低域は、特定の音の共振なくバランス良く豊かになった感じがします。
音の立ち上がりは、どちらかというと柔らかくなった感じですが、もやもやした感じは皆無で、特に低域はよりクリアに音が見渡せます。
特にNFBを最小にしたときも低域がやせないのが特徴で、ポップスなどは軽く音が出て好ましい感じです。
逆にNFB最大の時は、音は確かにタイトになるのですが、電流正帰還なしのときよりも音色の硬さが和らぎ、音が前に出てきます。
気になっていた残留雑音は全く影響なく、原回路と変化なしでした。
歪率は測定していませんが、聴感上は、逆に歪は減ったような感じを受けます。
抵抗値によって効果が変化すると思われるので、よりベストな値があるのかもしれませんが、ほとんど副作用もなく、これで十分と判断しました。
※これについては、完全な勘違いでした。実際は電流負帰還がかかっていました。詳しくは後述
(高域の改善)
上記、電流(正?)帰還の結果、NFBの量は必ずしも最大でなくても好ましい音となりました。
うちのプリアンプを買い換えたこともあり、高域の美しさや音場感を考えると、NFBが控えめのほうが好ましい音となり、NFB中間か最小で楽しんでいました。
そんな中、ある日、片Chから音のひずみが発生し、調査をしたところ、終段のカソード抵抗周りの電圧が不安定となっているようでした。
この部分は、過去に多量のNFBをかけるのを目的に、定格を超える値にしていたのですが、元通り240kΩに戻してみたところ、NFBの量が減ったのに残留雑音も下がり、動作が安定しました。(図19) (2013.3変更)
また、戻した方が高域がきれいに伸び、音質上も好ましい結果となりました。
調子に乗って、さらに高域特性を高めるために、初段のプレート抵抗(Rp1)を下げてみました。(図19a) (2013.4変更)
もともとRp=270kΩだったところ、100kΩをパラって実質73kΩで動作させましたので、高域特性は3〜4倍に伸びることになります。
6L6GTを挿してNFB最大の位置で聴いた限り、明らかに美しく切れのよい高域が得られました。細かい音が良く粒立ち、音場感がさらにアップした感じです。
しかし、NFBの量は全体に1/4〜1/3になったため、バランスが高域寄りになり、低域の力感が弱くなりすぎたので、この部分は元に戻しました。
(電流負帰還⇒電流正帰還への変更)
図19で実際のダンピングファクタを計測してみたところ、電流正帰還に関して、完全に勘違いしていたことが判明しました。
単純なことで、かけていたのは電流正帰還ではなく、電流負帰還だったのです!
ダンピングファクターがこの帰還により悪化していることでわかりましたが、トランス二次側の接続が逆になっていました。
では、実際の電流正帰還の音はどうなのか?ということで、回路を変更しました。(図19b) (2013.4変更)
音はというと、、、、悪くなりました。
具体的には、定位が悪くなり、高域も低域も伸びが悪くなり、音色も堅く、、、と言いことは何もありません。
単音で聴く分にはそれほど悪さはわかりませんが、パーカッションの音を聴くと明らかに違和感があります。
ダンピングファクターや音圧レベルを測定したところ、高域の低下という問題があることはわかりますが、低域やダンピングに関しては、非常に良くなっているように見えます。
私のアンプに関する考え方の転換点になりそうです。
ともあれ、電流帰還はいったんゼロクリアにして図20の回路に戻しました。
なお、(図15)で好結果を得たことからOPTの二次側はアースと接続させていません。
(負帰還の見直し実験)
今までのチューニングで体験した音を総括すると、電流負帰還をかけた高域、電圧負帰還を多くしたときの低域の双方を兼ね備えた音が理想ということになります。
音域によって負帰還のかけ方を変えることで何とかならないか、さらなる実験を進めています。
まずは、高域の伸びをよくするため、高域の負帰還量を減らしてみました。
初段カソード抵抗を高域のみ小さくするために、Rk1とパラレルにRk1-とCk1を追加しました。(図20a) (2013.9変更)
これだけだと高音寄りの音になるので、初段にラグ・リード補償回路を入れて、低域のみ利得を高くし、高域のNFB量を減らしました。(図20b) (2013.10変更)
ラグ・リード保障は、通常の真空管アンプよりもかなり低い周波数(160Hz)で高域の利得を落とすように設定しています。
最低域と最高域の落ち込みを補正する、いわゆるドンシャリです。
オーケストラの音はなかなか良い感じでしたが、音源によっては高域が刺さる感じになったり、人の声が不自然に聴こえる感じがしましたので、カソード帰還の高域補償はやめました。(図20c) (2013.12変更)
これでバランスの良い自然な音になりました。
(電流負帰還の再追加)
図20cの回路で特に不満はなくなったのですが、図19の時の高域の美しい響きを復活させたくなり、電流負帰還を再追加しました。(図21) (2015.2変更)
高域はより美しく響くようになり、低域も特定の音が強くなるような暴れがなくなり、より低い音域までフラットになった感じを受けました。
しばらくこれで聴きこみたいと思います。
(ラグ・リード補償の定数変更)
最新の回路で、周波数特性を測定したところ、250Hz〜500Hz周辺のレベルが低すぎ、500Hz〜1kHzあたりでレベルが急上昇することがわかりました。
ラグ・リード補償の設定が160Hzでしたので、その傾向はあったのですが、電流帰還により、スピーカーのインピーダンスの低い音域のレベルがさらに下がってしまったことが原因でしょう。
確かにチェロの音が軽くなってしまう感じがしますので、そこを改善しました。
ラグ・リード補償の設定周波数を、レベルが上昇する500〜1kHzあたりにすればよいと考え、Csg1を0.01μF(10000pF)→2200pFに下げました。(図21b) (2015.2変更)
結果、中域のバランスは良くなり、高域は非常に美しく伸びていますが、低域が強すぎるかもしれません。
しばらく聴きこんでから再調整を検討してみたいと思います。