無調整で差し替え可能!(6F6/6V6/6L6/6550/KT66/WE350/6GB8…)
マイナス定電流給電型 ユニバーサルシングルアンプ

2015年2月23日更新

 

(はじめに)

いきなり余談ですが、私はコーヒーの焙煎を趣味にしています。
コーヒーの世界では、もちろん1種類の豆を極めるという楽しみ方もありますが、いろいろな品種の個性を味わうことで、より一層楽しみが広がっていきます。

同様に、真空管オーディオにおいて、いろいろな球を気楽に取り替えながらそれぞれの持ち味を楽しむことができればどんなに楽しいだろう、と考えているうちに、面白いアンプができました。

シンプルですが、いろいろなアイディアが詰まったアンプです。

 

(特徴)

・数多くの5極管/ビーム管(6F6,6L6,6V6,6550,KT66,KT88,WE350B,6GB8 etc)を差し替え可能(差替え可能な球の一覧はこちら)
 ※ ソケットアダプタを外付けすることで、3極管を含めてベースの異なる真空管にも対応可能

・無調整でそのまま差し替えが可能、安定動作

・シンプル・軽量・安価

・音はストレートで高分解能、正確な定位感

 

(回路図)

 アンプ部回路図  電源部回路図 (2015.2/21更新)

 

(回路の特徴)

1.出力段のカソード抵抗を定電流化することで、真空管の種類を変えても自動的にほぼ最適なプレート電流を得られるようにしました。
 定電流電源の場合、レギュレーションの良い電源トランスが不要なので、コストを安く・小型軽量にできます。
 定電流回路は定電流ダイオード(CRD)を使用しています。
 (参考)Wat!のアイディア集

2.ターゲットとなる出力段を6F6,6V6,6L6とし、その定格範囲で最大の出力が取れそうなものとしました。
 大体プレート損失は11W以下、プレート電圧は300V以下、スクリーン電圧は270V以下になる範囲で、もっとも出力が得られそうな設計としました。
 結果、プレート電流=40mA前後、負荷=7kΩ弱となります。

3.出力段は通常は出力トランス側から給電しますが、出力段カソードにマイナス電源を供給し、出力トランスの一次側は接地しています。
 これにより、下記のメリットが得られます。(詳しくはここ!)
 ・左右チャネル間のクロストークがほとんど出ない
 ・チョークコイルがなくても電源リップルの十分な平滑が可能
 ・多量のNFBを安定してかけることが出来る
 ・出力段の信号ループがシンプル(カソード〜出力トランス(アース)間を1つのコンデンサで直結可能)
  ※ ただし、このようにコンデンサを接続する場合は、電源ON時にこのコンデンサに突入電流が流れるため、CRDの過電圧の保護のための対策が必要です。
    本アンプでは、定電圧ダイオードをCRDと並列に接続することで対処しています。
 (参考)Wat!のアイディア集

4.NFBのβを一定にすると、球によってDFが大きく変わってしまうため、NFB量の切替SWをつけ、より様々な音質を楽しめるようにしています。

5.出力段のグリッドに接続のダイオードは過大入力防止です。
これを入れる前は、過大入力時に大きなノイズが発生していました。
また、出力管のスクリーングリッドに無理がかからず、長寿命化が期待できます。
 (参考)Wat!のアイディア集

6.出力段のスクリーンには、アースから抵抗で電圧供給し、電圧安定のため、カソードから定電圧ダイオード(+コンデンサ)を接続しています。(2006.4/28変更)
 以前は、アースから定電圧ダイオードを接続するだけのシンプルな接続でしたが、この方法では、出力によってスクリーン電流が変化するのに伴い、プレートに流れる電流が変化してしまう、という問題点がありました。
現回路の接続方法で、その問題が解消され、聴感上も音の抜けと切れが非常に良くなりました。
 (参考)Wat!のアイディア集

7.増幅段のスクリーンはB電源と出力段プレート間を分圧したものをフィルムコンデンサ(3.3μF)で固定しています。
この回路で、フィルムコンデンサの容量を非常に小さくすると、スクリーンにポジティブフィードバックがかかって、増幅段の利得が増えるため、容量を小さくすると発振します。
この部分の電圧は、以前は定電圧ダイオードで安定化させていましたが、この回路を用いることで、最低域の伸びが良くなると同時に、音楽の静けさや空気感の再現が良くなりました。
 (参考)Wat!のアイディア集

8.出力管のグリッド抵抗値は、いろいろな球の定格に収まるよう、240kΩとします。
カソードを定電流にしているので、グリッド抵抗値を大きくしても問題ないのではないか、と判断し、470kΩを追加して710kΩとして相当長らくの間、使っておりましたが、動作不安定と思われる事象が発生したため、元に戻しました。
戻してみると、こちらの方が音がよく抜けて残留雑音も少なくなりました。 New!

9.増幅段用のプラス電源に関しては、電源トランス〜ダイオード間に200Ωを挿入していますが、オーバーシュート対策に少しでもなれば、というおまじないです。(どのくらい効果があるかはわかりません)

10.NFBは、当初は1号機と同じPG帰還のみでしたが、チューニングの結果、ラグ・リード補償と電流負帰還を追加しています。
ラグ・リード保障は、スピーカーのf0周辺の暴れやすい領域のみ高いDFが得られるようにするため、低域の利得だけを高くするために入れています。
ラグ・リードを入れない場合、400Hz〜1000Hzあたりで急にゲインが高くなるようでしたので、723Hzを中心にゲインが下がるように設定しました。
電流負帰還は、これによりf0以下の音域と高域が美しく伸びる効果が確認されましたので、追加しています。
これにより、多量のNFBによる低域の力強さに加え、高域が美しい響きになりました。

  ※ 詳しくは今までのチューニングをご参照ください。

 

 

(実装図)

 こちら です (※ 少し古いバージョンですので参考程度にしてください。いろいろと手を加えたので、現在の実装は若干継接ぎになってしまっています。

 もっと古いバージョンになりますが、tyataroukenさんにとても見やすい実装図をいただきました。(2003.8.13)

 

(実装の特徴)

1.大きめのシャーシで、ゆとりをもった配置にしています。将来入力トランスを入れたり、さまざまな改造が容易に行えます。

2.出力トランスはバンド型のため、シャーシ内部に配置しています。
そのため、外観は極めてシンプルなデザインになっています。
ソケットアダプタをつける際に、シャーシ上部が広いのは大きなメリットになります。

3.シャーシ中央にアースラインを通した左右対称配置で、電源部→出力段→増幅段→入力部ときれいに配置してあり、クロストークやハムが出にくい合理的な配置になっていると思います。

4.悪い点を強いてあげると、重量バランスは良くありません。
アンプの後ろが重く、前が軽くなっています。
出力トランスは、シャーシの前面の方に持ってきた方が良かったかもしれません。電源トランスから離れることにより、残留雑音上も有利だと思います。

 

(部品リスト)

 こちら です。 New!
 ※ 2015.2/23 回路21bベース

 

(部品選択について)

1.電源トランスはレギュレーションは悪くてもよいため、定格ぎりぎりのものを使って問題ないはずです。
 ノグチトランスのPMC-100Mが低価格で今回の回路にぴったりの仕様です。

2.出力トランスは高音質とうわさのHammond社製125E/HMを使用しました。
 もう少し安価なものとしては、春日無線のOUT-54B57あたりがおすすめです。

3.出力管を頻繁に取り替えることを想定して、GTソケットはかなり高価でしたが、 山本工芸のUSテフロンソケットにしました。
 かなり高価ですが、非常にしっかりとした作りでいろいろな球を買い揃えることを思えば、無駄な投資ではないでしょう。
 初段用のMTソケットもしっかりしたものにしています。

4.出力段カソード〜出力トランス間のコンデンサは、大容量の電解コンデンサにしています。
当初は大型のフィルムコンデンサ(47μF)を用いて抜けの良い音を狙いましたが、それよりも容量の大きな電解コンデンサをパラったところ、低域の空気感が出て圧倒的に音が良くなりました。現在はフィルムコンデンサは不要と判断し、取り外しました。

5.段間は最初は東一のオイルペーパーコンデンサを使用していましたが、現在は安価なフィルムコンデンサに変更しています。
 個人的な感想としては、オイルペーパーの方が音の厚みはありましたが、高域への伸びと上品な美しさという意味ではフィルムの方が上でした。
 このコンデンサによって音質が変わるのは確かですので、好みのものを使用してください。
 ただし、耐圧はDC750V以上にしないと、球が暖まるまでの間、耐圧オーバーになりますので注意してください。

6.抵抗は、下記のような感じで適当に選択しました。

 電源整流関連は極力セメント、その他1W以上の部分は酸金、信号部は炭素皮膜。 定格値は基本的に実際の損失の4倍以上のものを使用。
 特に高級なものは使用していません。

7.配線材は特に高級なものは使用していません。手持ちをがあったので、基本的に下記のような感じで使い分けました。

 ・信号が直接流れる部分は海神無線で売っている0.5mmの単線(少し高級)
 ・出力段ヒータは1.25mmの電源コードを拠って使用(←太すぎました... 熱にも強くないので、少し太めの配線材の方がBetterです)
 ・アースラインは、中央部は1.6mmのIV単線を剥いて裸線にして使用、その他のアース供給部分には1mmのIV単線を使用
 ・直流供給は通常の配線材セットのVSF 1Φを使用

8.定電圧ダイオードは、CRDの突入電流対策用には定格の大きな石塚の2Wタイプを使用、スクリーン電圧安定用は、1Wのものを使用しました。

9.整流用のダイオードは超高速リカバリー(75ns)のものに(交換)しました。

 

(特性)

・残留雑音(4Ω両端,6V6GTで計測):(回路21b、2015.2/22測定) New!
    0.25mV(NFB最大時)〜0.50mV(NFB最小時)

   ・出力管によって若干の変化はあります。Gmの大きな球ほどNFBの量が増えるため、残留雑音値は小さくなります。
   ・チョークコイルを使用しないでこの値は自慢に値するとは思います。
   ・SW投入直後の残留雑音は約0.4mVです。
    出力トランスの配置を電源トランスのハムを拾いにくい位置にすれば更に静かになるはずです。(考慮が足りなかったです。反省。。。)

・出力レベル/DF:実際のスピーカ(4Ω)をつないでON-OFF方で6V6GTについて計測してみました。 (出力レベル計測結果)  (ダンピングファクタ(DF)計測結果) New!
 ※ 2015.2/22 回路21bで測定

   ・4Ω両端で200mV前後になるようにして計測しています。(10mW程度の出力)
   ・周波数による変化は、SPのインピーダンス特性の暴れの影響です。
    抵抗で測定するよりも実態に合っていると思います。
   ・高域が非常に伸び成功ですが、低域が強くなりすぎてしまいました。
    ラグ・リード補償はもう少し控えめの方が良いかもしれません。

・クロストーク: 測定限界以下(最大出力時でも残留雑音に変化なし)
   ・クロストークの良さはマイナス給電の特長です。
   ・ボリュームを左右共通にする場合は、余程の高級品を使わない限り、クロストークが悪くなりますので、不便でも左右独立をお勧めします。

 

(視聴結果)

・一番良いのは音場感が良く出ることでしょう。フルオーケストラでも各パートの定位が手に取るようにわかります。

・明るくて抜けの良い音がする一方、低音もシングルアンプとしては異例なほど強力だと思います。

・当初はNFBを大きくしないと低音に力がない感じでしたが、いろいろチューニングしたことでバランスが変わってきました。

・球を差し替えて聴くというのは思った以上に楽しくて、調子に乗っていろいろと買ってしまいました。
 ※ 手持ちの球と音の印象はこちら

 

(自画自賛)

・とにかく手軽にいろいろな球を取り替えられるのは狙い通りとはいえ、最高に楽しいです。
 必ずしも各出力管の理想的な動作ではないのですが、球による音の違いは十分楽しめます。

・一般のコンパチブルアンプは、球を挿しかえる度に可変抵抗やスイッチ等を切り替える必要がありますが、このアンプでは、何のチューニングもせずに球だけを挿しかえれば良いという点で、真空管に詳しくない人にも広くお勧めできると思います。

・ソケットアダプタを製作することで、6BQ5や6BX7GT、6CA7、6DQ6等の水平偏向管etc...いろいろなベースの球を楽しめるようになりました。
 シャーシの上部が何もない状態なのでソケットアダプタはかなり大型にしても大丈夫です。
  ソケットアダプタ(6CA7/6BQ6 etc用)のイメージ図

・6CA7用のソケットアダプタについては、出力段SGを自由にコントロールできるよう、複数の定電圧ダイオードの切替スイッチを付加したものを製作しました。
 これによって6W6や6BQ6など水平偏向タイプの球も差替えできるようになり、ますます楽しみが広がると同時に、6550系などの大型管についても、特性の良い部分で動作させることが可能になり、音の魅力が増します。

・音質としてはどの球を挿しても最低音域から高音に至るまで立ちあがりが良く、音場感が良く出るところが特徴でしょう。
 私の中での今までの真空管アンプのイメージ(ナローレンジ&高密度って感じ…)がちょっと変わりました。
 コスト的にも電源の平滑回路が非常に簡易にできることもあり、一部に豪華な部品を使っている割には安くできました。
 部品にこだわらなければもっと安価に作れると思います。

 

(マイナス給電型6BQ5シングルアンプと比較して)

 第1作のマイナス給電型6BQ5シングルアンプと聴き比べてみました。

 当初の第一印象としては、高域はこちらのGT管アンプの勝ち、低域は6BQ5の勝ちという感じでした。

 しかし、ソケットアダプタを製作し、6BQ5を本アンプに挿した結果、本アンプの方が細かい音がつぶれず良く聴こえ、奥行き間も出て、1ランク上の音がすることがわかりました。

数々のチューニングを行った現在では、低域も含めて全ての面において本アンプが圧倒的に良いです。
 ---ということで一号機はバラしてしまいました。

6BQ5アンプの方が電源部が贅沢で、左右別シャーシにしたにもかかわらず、その部分の優位性は感じられません。
 定電流化している本アンプのような回路では、電源部の余裕度は必要なく、整流回路も簡略化できる、ということでしょう。

 

(反省)

 基本的な構想としてはうまくいったと思います。いろいろと予想外のこともあったのですが、いろいろ改善を加えた結果、大きな不満はほとんどなくなりました。
今まで行ってきたチューニングをこちらにまとめています。

以下、現時点での反省です。

 ・出力トランスの配置については、もう少しハムを拾いにくい位置を調べてから決めた方が良かったです。
 重量バランス的にも、残留ノイズの点でも、手前側に配置した方が良かったような気がします。

 ・シャーシのスプレーペンキの色をスウィートパープルというちょっと変わった色を選んだのですが、意外に安っぽく仕上がってしまいました。
 大した問題ではないですが、修正困難です。

 ・入力が前面にあるのは、信号の流れがシンプルでよいと思ったのですが、身内からは見苦しいので後ろの方が良い、という指摘も受けています。

その他いろいろな方にいただいたご意見をこちらにまとめています。

 


(本アンプに関する情報)

現在の回路図(増幅部)

現在の回路図(電源部)

実装図(旧回路用)   実装図(旧回路用,豪華版)(tyataroukenさんに作っていただきました)

部品リスト

周波数特性(出力レベル)計測結果 

ダンピングファクタ(DF)計測結果

ソケットアダプタなしに差替え可能な球の一覧

手持ちの球と音の印象

今までのチューニング 2015.2更新!

ソケットアダプタ(6CA7/6BQ6/6550etc用)のイメージ図

マイナス給電アンプのメリットについて

いただいたご意見

作品写真館


(取り組み履歴)

2001年 7月:構想・設計

2001年 8月:製作開始→とりあえず完成

2001年10月:終段スクリーン電圧をヒータトランス倍電圧整流(15V)で降下→失敗

2001年11月:終段プレート電圧をヒータトランス倍電圧整流(15V)で底上げ→失敗

2001年12月:終段スクリーン電圧を定電圧ダイオードで降下→成功

2002年 2月:初段SGを定電圧ダイオードで安定化

2002年 2月:6BQ5用ソケットアダプタの製作

2002年 3月:6BX7用ソケットアダプタの製作

2002年 10月:終段カソードバイパスの大容量化

2002年 11月:6CA7/6550用ソケットアダプタの製作

2003年 1月:整流用ダイオード(マイナス電源用)の変更

2003年 2月:整流用ダイオード(プラス電源用)変更、初段SGへの給電ルート変更

2003年 3月:水平偏向管用ソケットアダプタの製作(改造)

2003年 3月:段間コンデンサの変更(オイルペーパー→フィルムに)

2003年 4月:Rk2の定数変更、終段スクリーンの雑音対策(コンデンサ付加)

2003年 4月:NFB補償用コンデンサ(Cnfb)付加

2003年 8月:6AR6用ソケットアダプタの製作

2003年 9月:カソードフォロア追加のための実験

2004年11月:回路の再検討開始

2005年 2月:初段スクリーン部分回路変更

2005年 3月:出力段PG間にコンデンサ挿入(ワイドラー的回路)による高域改善

2005年 3月:出力段グリッド抵抗値の変更

2005年 5月:初段電源フィルタの抵抗値の変更

2005年 9月:出力段スクリーン電圧の変更、カソードバイパスのフィルムコンデンサ撤去、出力段PG間帰還の取り外し

2005年10月:OPT二次側の回路変更(実験)

2006年 4月:出力段スクリーン電圧供給方法の見直し

2009年 2月:電流帰還の導入

2010年 2月:回路図の更新(見やすくしました)

2013年 3月:終段グリッド抵抗の定数変更

2013年 4月:電流正帰還/負帰還の実験

2013年 4月:電流帰還の取りやめ

2013年 9〜12月:負帰還見直し実験(ラグ・リード補償追加)

2015年 2月:電流負帰還の再追加

2015年 2月:ラグ・リード補償の定数変更、特性測定


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